献げることば またもや、近づいて来たな、おまえら、ゆらめく姿の ものたち、 ひとみ むかし、わたしのばんやりした瞳に、いちはやく浮ん だまばろしの姿ども。 おまえらを、こんどこそ、しつかり掴まえてやらなく ては。 わたしの心は、いまなお、あの幻想に惹かれるのであ ろ ; つか ? ・ おまえらは犇めいてくる ! では、勝手にふるまえ、 わたしのまわりの靄や霧のなかから、立ちのばるまま おまえらの群をつつむふしぎな息吹きで、 ス ウ わたしの胸は、若返るようなときめきを覚える。 ア フ 店おまえらは、楽しかった日々の思い出を運んでくる、 すると、 いとしい、さまざまの面影があらわれる。 ささ ひし もや つか ひ 古い、なかば忘れられた物語のように、 初恋や友清が、ともに、いによみがえる。 痛みは新たになり、嘆きは人の世の行方も知れぬ 迷路の歩みをくりかえし、 かりそめの幸福に欺かれてうつくしい歳月をも見ず、 わたしの前からどこかへ消えた、懐かしい人たちの名 を呼ぶ。 あの人たちは、歌のつづきを聞いてはくれない、 あの人たちのために、わたしが最初の幾節かをうたっ たのに。 親しかったものの集いは、四散した。 ああ、最初のあの反響も、どこかへ消えてしまった。 わたしの嘆きは、多くの見知らぬ人びとにったわり、 その人たちの喝采さえも、わたしの心を不安にするば 、刀》 . りノ 五かって、わたしの歌をよろこんでくれた人たちは、 まだ生きているにしても、この世でちりぢりになって いま、わたしをとらえるのは、久しく忘れていた あの、しずかな、おごそかな霊の国への憧れだ。 エーオルス * わたしのささやくような歌は、風神の琴の音のよう かつ、い あこが

主要登場人物 あいび ファウスト メフィストーフェレス まう。しかも逢引きを一瞬でもひきのばそうと、 年齢は五十歳くらいの大学者。あらゆる学問を 奇怪な人間めいた姿をした悪魔。目にはたえずファウストにすすめられた眠り薬の量を誤って母 いつも冷然たる態度をくすさない。親に与えてしまい、殺してしまう。つづいて軍隊 きわめつくして、ある日、結局は何ひとっ知るこ冷笑を浮かべ、 わら に入っていた兄ヴァレンティンもファウストの剣 とはできないということしか分らない、と悟ってファウストの魂を狙って、小世界 ( 市民的生活 ) がくぜん に倒れ、あまっさえファウストの子供を身ごもっ 愕然とする。すべてが虚しく生きる望みを失って、から大世界 ( 政治的、根元的世界 ) へと案内しな て、世間の風当りはいっそう強まる。 ・がら、あらゆる誘惑の手をゆるめない 毒杯を仰ごうとしたとき、復活祭を告げる鐘の音 ワーグナー マルテ と合唱の歌声がひびいてくるのをきいて、あやう グレートヒエンの隣家の、中年すぎの好色な女。 ファウストの助手。大変な勉強家だが、彼の学 いところで生へと呼びもどされる。しかし、生命 問には魂がない。知識だけしか問題にしないから夫は旅に出たきり、もう五、六年も帰ってこない は失わなかったものの、はげしく現世にしがみつ く自分と俗世をのがれて霊界へ上りたいという自である。第二部では、人造人間ホムンクルスを造グレートヒエンからも身上相談をよく受けるほど ふうび せきがく 気さくである。 りだす一世を風靡する碩学として登場する。 分に引き裂かれている彼の前に現われたのが、メ ヘレナ フィストーフェレスである。そして、もし現世へグレートヒエン ( マルガレーテ ) 十四、五歳。しとやかで慎ましやかだが、それ 第二部に登場するギリシャ第一の美女。冥府か の誘惑に負けて、ある瞬間にたいして「止まれ、 ら連れもどされてのち、ファウストと結ばれる。 おまえはなんとすばらしいのだ ! 」と言ったときでいてすましたところのある美少女。幼い頃父に には、よろこんで自分は滅びようという契約をし死なれ、病弱の母に代って妹を育てるが、やがて地上の楽園アルカディアで幸福な結婚生活を送り、 一子オイフォリオンが生まれる。 てしまう。その日から、肉体の有限性から解放さ死なれてしまう。そんなとき、青年ファウストに れて若返ったファウストの試練の旅が始まる。 出会ってお互いに愛しあい、深い間柄となってし - 第一部 - 天上 主 グレートヒエン ファウスト ヘレナ 】魂を渡す契約をする 小世界と大世界を案内する【 オイフォリオン ころ 子】 第ニ部 メフィストーフェレス

詳細目次 ささ 献げることば 劇場での序幕 天上の序曲 夜 市門の前 書斎 書斎 ライブツイヒのアウエルバッ、 場 くりや 魔女の厨 街路 タ 散歩 隣の女の家 街路 庭 あずまや 園亭 ほらあな 森と洞穴 悲 第 部 ノの酒 134 127 125 172 163 153 141 227 226 221 219 213 212 208 205 197 187 グレートヒエンの部屋 マルテの庭 井戸のほとり ツウインガ 城壁裏通路 夜 寺院 ワルプルギスの夜 ワルプルギスの夜の夢 曇り日 夜、広野 ろう ) ) く 牢獄 悲劇第二部五幕 第一幕 みやびやかな地域 皇帝の居城 玉座の間 大きな広間とそれにつづく次の間 遊園 暗い廊下 明るい燈火の広間 騎士の間 第二幕 高い円天井のある、狭いゴシック風 329 326 321 315 290 280 280 277 の部屋 実験室 古典的ワルプルギスの夜 ファルサロスの古戦場 ペナイオス河の上流 ペナイオス河の下流 前と同じペナイオス河の上法 エーゲ海の岩の多い入江 第三幕 スパルタのメネラス王の宮殿の前 城の中庭 第四幕 高山 前山の上 贋皇帝の天幕 第五幕 ひろびろした土地 宮殿 深夜 真夜中 宮殿のひろい前庭 埋葬 やまかい 山峡。森、巌、荒涼の地 いわ 初し 381 366 358 353 350 350 344 337 500 493 490 487 484 480 478 468 455 446 417 396